●当院におけるめまい診療●
院長は、1977年に勤務先の日本大学医学部附属板橋病院に、めまい外来(神経耳科外来)を設立し、数多くのめまいや平衡障害の患者様を診察してまいりました。また1986年からは日本めまい平衡医学会の専門会員として、内耳の病気によるめまい・平衡障害だけでなく、脳や脳血管などの頭蓋内の疾患によるめまい・平衡障害についての診療、研究および教育を行ってきました。
当院には、めまいや平衡障害を訴える多くの患者様が来院され、2010年6月~2017年7月の6年の統計では、初診患者さん2,801人、延べ約10,271人です。その約4%は、脳や脳血管に異常が見つかった患者様です。初診時の診察で必要がある場合には、脳のMRIやMRAを近隣の病院で速やかに検査していただいて、めまいの原因を診断しています。
●良性発作性頭位めまい症(BPPV benign paroxysmal positional vertigo)●
1)良性発作性頭位めまい症とは
寝返りをうったとき、ベッドから起き上がったとき、横になったときなどの頭の位置を変えたときだけに、めまいが起こる内耳の病気です。吐き気を伴うこともありますが、多くはめまいだけが症状です。めまいは10秒前後で治まるタイプと(めまいが起こる頭位を取り続けると)1分以上続くタイプがあります。めまいをきたす疾患では最も多く約40%前後を占め、中高齢者に多く、患者様の約75%は女性です。原因のほとんどは、内耳の耳石器の耳石の一部が剥がれ落ちて三半規管に入り込んでしまうことですが、三半規管の微細な障害でも出現すると考えられています。
経過が良く原因は良性で、発作性に頭の位置(頭位)によって起こるめまいであることから付けられた病名です。
2)内耳の働きとめまい発生機序
内耳は、聴覚に関係する①蝸牛、平衡感覚に関係する➁耳石器および③三半規管の三つの部分に分けられます。耳石器は直線加速度、重力、遠心力などを感じ取りその情報を脳に伝えます。三半規管は、頭を動かした時に生じる半規管内のリンパ液の動きをクプラというセンサーが感受して、頭部がどの程度回転したかを脳に伝えるとともに、頭が動いても視線を対象物に固定できるように(揺れて見えないように)、目の動きをコントロールする働きをしています。そのため、目の動きに関係する三半規管の病気では、眼振という目が勝手に動く(振れる)現象が起こり、その状態を脳は周囲の物が動いたり回ったりする感覚、つまり「めまい」と感じます。眼振(目の振れ)が大きいほどめまい感は強くなります。
三半規管は外側半規管、前半規管および後半規管で構成されていますが、良性発作性頭位めまい症のほとんどは外側半規管と後半半規管に起こり、前半規管は稀です。
また良性発作性頭位めまい症は、蝸牛には異常を起こさないので、この疾患によって、耳鳴りや難聴が起こることはありません。
3)診断
頭を動かした時に、どのような目の動きの異常が出現するかを調べる眼振検査を行わないと、診断はできない疾患です。この検査で眼振を観察することで、患側と異常のある三半規管を特定することができ、半規管内に入った耳石の状態も推定できます。当院では、赤外線CCDカメラを使用したテレビ画像装置を用いて、精度の高い眼振検査を行い診断しています。
4)治療
耳石の成分はカルシウムで、内耳内で毎日少しずつ生産され、古いものは6ヶ月前後で吸収されています。三半規管に耳石が入り込んだ状態を改善できる薬剤はありませんので、吐き気がある場合に吐き気止めを頓服薬として使用する以外の薬物治療は推奨されていません。
めまいは、1~3日程度で自然に治癒することも少なくありませんが、1ヶ月以上続く場合もあります。耳石を元の位置である耳石器に戻す「浮遊耳石置換法」が唯一有効な治療法と言えます。現在は、耳石が外側半規管にある場合はGufoni法、後半規管ではEpley法が、有効な方法として広く行われています。この治療法によって治癒までの期間を短縮することが期待でき、また治療直後にめまいが殆んどなくなることも少なくありません。3か月以上続くような難治性の場合には、手術療法を行うこともあります。
5)予防対策
低い枕を使用、どちらか片方を下にして就寝する習慣および寝返りが少ない、などが発症の原因になることが多い疾患です。解剖学的にみると、三半規管は耳石器より上位にあるので、枕を一定以上に低くしない限り、たとえ剥がれた耳石が耳石器内に存在しても、三半規管に入り込むことはないと考えられます。そのため、適切な高さの枕を使用すること、および就寝前に左右に寝返りを数回行うことが、有効な予防法として推奨されています。
●メニエール病の診療●
めまいを起こす耳(内耳)の病気で2番目に多い疾患は「メニエール病」です(めまい全体の約11%)。左右どちらかの耳の難聴(聞こえが悪くなること)、耳閉塞感および耳鳴りを伴うめまいを反復して起こします。ストレス、睡眠不足、運動不足、心身の疲労などによって発症し、放置していると病気は進行して、病気にかかった方の耳の聞こえが悪くなってしまいます。
内服薬を中心とした治療を行いますが、病気の進行を止め治すためには日常生活の改善が必要です。日々どのようなことに気を配る必要があるか等を説明しています。
また状態によっては、薬剤を中耳腔へ注入する「鼓室内注入療法」も行います。
入院治療が必要な場合には、めまい専門医がいる大学病院の耳鼻咽喉科へ紹介いたします。